初代ニンテンドースイッチから約8年越しに、ついに発売となった「ニンテンドースイッチ2」。そのローンチタイトルとして、満を持して任天堂が送り出したのが『マリオカート ワールド』です。
初代スイッチのベストセラー&ロングセラーな前作『マリオカート8 デラックス』の存在を考えれば、任天堂が本作を次世代機の看板タイトルとするのは自然な選択でしょう。
とはいえ、前作がすでにシリーズの完成形といえる作品に仕上がっていたため、その続編ともなれば、単なる正統進化ではなく、何か別のアプローチをしてくるだろうというのは想像に難くありませんでした。
実際に発表された本作は、すべてのコースがシームレスに繋がるオープンワールドになったことや、24人同時対戦になったこと、新たなアクションが追加されたことなどが主なフィーチャーとなっています。
しかし、実際に手にとってみて感じるのは、とにもかくにも本作は「レースが面白い」ということでした。本稿では、「グランプリ」やオンライン対戦、「フリーラン」などを一通り触った、45時間ほどのプレイでの『マリオカート ワールド』のレビューをお届けします。
帰ってきたハチャメチャな『マリオカート』―24人対戦でさらに加速するパーティーレース感
リアルな景色やエンジン音を感じながら実在する車を走らせるレースゲームは数あれど、前の車に甲羅を投げて、バナナを踏んでスリップして、イカスミで前が見えなくなる。
そんなハチャメチャなレースが繰り広げられるのは、やはり『マリオカート』をはじめとするパーティーレースゲームならではの楽しみです。

正々堂々と、ハンドリングやドリフト、空気抵抗でスピードを絞り出して勝利するレースと違って、『マリオカート』は「ダッシュキノコ」ひとつ食べれば何倍もの加速を得られます。
そして、気持ち良く先頭を走っている車両を攻撃して大きく減速させる「トゲゾーこうら」……当たったときには理不尽であるにもかかわらず、なぜか“楽しい”気持ちに。そして、それらの理不尽をかいくぐって掴む勝利は何よりも気分が良いものです。
『マリオカート ワールド』は、シリーズで初となる24人対戦を実現しています。これは前作『マリオカート8 デラックス』の最大12人対戦の2倍です。24人ものレーサーが甲羅やらハンマーやらを投げ合って行われるレースは、よりカオスでハチャメチャなものになりました。
本作を触っていると、やはり自分が『マリオカート』に求めているものはこれなのだと再認識します。他のレーサーとの距離が近く、「抜いた」「抜かれた」が発生しやすいため、前作よりもパーティーレースゲームらしさを感じられるようになりました。

もちろん、レーサーが極端に密集しすぎないように、コースのルートがかなり豊富になっていたり、単純に横幅の広い道路がコース中に増えたりといった工夫もなされています。狭く圧縮されている道路と、広くルートの多い道路との差によって緊張感にメリハリが生まれているのです。
前作では1位の防御手段が多く、レーサー間の距離の圧縮が起きづらい印象だったアイテムバランスも、本作ではアイテムが車体後ろに即付けになったことから守備用のアイテムを保持しづらくなっています。
24人レースなこともあり、全体的にレーサー間の距離が短くなった印象で、下位のアイテムを使う場面も多くなりました。総じて「アイテムをたくさん使える」「アイテムをたくさん食らう」ゲームになっていると感じます。

一方で、新たに追加されたアクションである「チャージジャンプ」や、レール乗りを活用した新たなルート開拓は上級者への一歩としてやりがいのあるものに仕上がっています。
「タイムアタック」などを利用した事前の練習が、対戦で成功した時の感動はひとしお。最新の強いルートがタイムアタックのランキングのゴーストを見ればわかるのも、ソフト単体で学べることが多く前作に引き続きありがたい部分です。
そのため、オンライン対戦については従来通り少ないラップ数を走る「VSモード」が、テクニックもアイテムの使い方も活きるかなり楽しいモードになっていました。
マッチングや次の選出の待機中に、後述する「フリーラン」ができるのも好印象。今対戦を終えたコースからフリーランがスタートするので、ルート取りやショートカットの復習などがすぐに行えます。

また本作では、勝ち残りをかけた新たなモードである「サバイバル」も登場しました。これは、オープンワールド化によるコース間のシームレスな繋がりを最大限に活かした対戦モードです。
各コース間を途切れることなく走りきることになるサバイバルでは、道中のチェックポイントで特定の順位以下が脱落となり、どんどん人数が減っていきます。最終的には4人で走る事になり、最後まで生き残った上位プレイヤーとのレースが繰り広げられます。
サバイバルは、チェックポイント直前で上手く生き残れるかがすべてです。チェックポイント前でいかにダメージを抑えられるか次第なため、3ラップほどかけてラストのために準備をするVSモードよりも運ゲー感は強め。1試合に5、6回ほどトゲゾーが飛んでくることもあったため、2位以下を引き離すのは難しく、少なくとも逃げの戦法はあまり有用ではなさそうな印象です。
また既存のコースをルート通り走ることが少ないため、タイムアタックでの練習も活きづらいです。「サバイバル」でのルートを練習するには「サバイバル」をやるしかないのは辛いところ。1試合が長い上、脱落するとその後のルートが走れないのも大変です。とはいえ、脱落の仕様があるからこその戦法が生み出される余地はあるかもしれません。

筆者が遊んだ範囲では、全体的に本作は、加速やまがりやすさの強い軽量級から中量級で下位から打開を狙う戦術が有利な印象です。このあたりはユーザー間でさらなる研究が行われるでしょうし、今後のアップデートでもさまざまな調整が入るかもしれませんが、少なくともVSの現状のバランスは筆者としてはかなり好みでした。
『マリオカート』だからできる唯一無二の世界とアート
『スーパーマリオ』シリーズは、基本的に、牧歌的な土地で繰り広げられるファンタジー作品という印象が強いかもしれません。これはFC『スーパーマリオブラザーズ』が築き上げたベースとなる世界観、つまるところ「キノコ王国」のイメージが現在まで引き継がれている結果と言えるでしょう。

なぜか目のついた雲や星、丸みを帯びた山々、空中に理由もなく浮かぶ「?」と描かれたブロック、襲いかかってくるキノコ型の生物に、赤いつなぎのヒゲの男。このある種の脈略のなさ、整合性とは程遠い、ゲームのためだけに生まれた『マリオ』の世界は、すでに唯一無二の要素で埋め尽くされています。
そんなファンタジー世界で、今度はマリオがカートレースを始める。SFC『スーパーマリオカート』は、食べると加速する謎のキノコと、エンジン駆動のレーシングカートが同居する、これまた摩訶不思議な世界を有していました。

そして時代は進み、人気シリーズになった『マリオカート』は、本数を重ねていくなかで本編『スーパーマリオ』シリーズとはことなる世界観を描くようになります。
つまるところ、エンジン駆動のレーシングカートがある世界ならば、キノピオが一般の車両に乗って往来する「キノピオハイウェイ」もあるのだろうと。そしてデイジー姫は実は、「デイジークルーザー」なる豪華客船を所有しているのだと……などなど、現代的なモチーフを次々に持ち込めるようになった『マリオカート』は、次第にその利点を活かした形のアート面に強く力を入れるようになりました。
特に、WiiU『マリオカート8』は初のHD機での『マリオカート』ということもあり、非常に気合が入っています。
よりリアルにできるようになったライティングや質感表現を最大限に活用しつつも、“マリオらしい”コミカルなデザインから脱しない建物の意匠、各コース間の繋がりを示す世界観の構築と、その世界でのキャラクターの営みを想像できる細やかな装飾など、「現代的なマリオ世界」の輪郭を確かなものとしました。


そして、『マリオカート ワールド』は『マリオカート8』が築いた細やかな意匠や装飾のクオリティはそのままに、そのすべてを繋げたシームレスな世界をついに実現します。筆者は『マリオカート8』を遊んでいた時から「この世界を自由に走りたい」と思っていましたが、まさか本当にそんな企画で新作が進行していたとは……。
オープンワールドになったことで、すべてのコースは大陸や他のコース間と行き来ができるよう接続されています。そのようにコースを作る場合、過去作と比べてダイナミックな演出や構造のコースにはしづらくなるのでは、という懸念もありました。
しかしそれも全くの杞憂であり、コースは依然として(むしろ過去作よりも)ダイナミックな仕掛けに溢れたものばかり。オープンワールド化とこのコースデザインの両立は見事です。

さらに、本作のグランプリをすべて制覇したあとに訪れることになる“あるコース”。これだけは「フリーラン」では行くことはできないようになっています。
このコースに関してはむしろオープンワールドと接続されていないからこそできる、本作のすべてのコースを上回るダイナミックな仕掛けが用意され、トリを飾るのにふさわしい構成となっていました。


キャラクタービジュアルも前作から比較してより細やかになり、衣装なども豊富に追加されました。本作からできるようになった「フォトモード」も嬉しく、本作の魅力的なロケーションと合わせ、撮りがいのある場面にあふれています。
各キャラクターのアニメーションやフェイシャルもより豊かなものになっているほか、トゲゾーの爆発のエフェクトに「KABOOOM」という文字が出たり、カートの動きがぽよぽよと大げさなものになっていたりと、本作の持つカートゥーン風アートはスタイリッシュな印象だった『マリオカート8』とはまた違った魅力を放っています。筆者は、本作のかわいさ溢れるアートスタイルが大好きです。

目的に乏しいのに時間が溶ける―リッチでいびつな「フリーラン」
上述したように、本作の『マリオカート』世界は「マリオ」と現代的なモチーフが絶妙に組み合わさった、魅力的なオープンワールドを描ききっています。その中を自由に走り回れる「フリーラン」のモードがあることは、本当に嬉しい。
しかし「フリーラン」に“都市型オープンワールド”のような体験を求めていた人は、肩透かしを食らうかもしれません。基本的に「フリーラン」には、ほとんど目的がないのです。

「フリーラン」でできる“進行要素”は主に3つあります。ひとつは、各コースの周辺に点在する「ハテナパネル」を踏むこと。2つ目は、少し取りにくい位置にある「ピーチコイン」を取ること。最後は、各地に点在する「Pスイッチ」を踏むと発生する「Pスイッチミッション」をクリアすること。
「ハテナパネル」を踏めば車体に貼れるステッカーを入手できるほか、「ピーチコイン」を入手しても車体用のステッカーを入手することができます。さらに、「Pスイッチミッション」をクリアすれば、これまた車体に貼るステッカーが手に入ります。

……はい、そうです。どの要素をクリアしても、もらえるものは“ステッカーだけ”です。唯一マップ画面でそのコース周辺の残り枚数を確認できるハテナパネルも、コンプリートしても何もありません。
ピーチコインを複数枚使って報酬と交換できる施設とか、一定枚数以上の所持で入れる場所とか、そんなものも当然ありません。話すとおつかいやチャレンジが発生するNPCや、新たな地域やマシンが開放される隠し要素など……そういったものは「フリーラン」には一切期待しないでください。

正直、ここに関してはかなり残念に感じています。『マリオカート』の世界をシームレスに繋げ、アセットの使いまわしなども感じさせない密度の濃いオープンワールドのフィールドが確かにここにあるにもかかわらず、そこを冒険し開拓する遊びは尽くオミットされているのです。
ファストトラベルも最初からすべてのコースに対してできるため、本当に文字通り「フリーラン」としか言いようがないモードです。
そのおかげで、本作の一番楽しい部分である「レース」にすぐに注力できるようになっているものの、せっかく用意されたこのリッチな世界がレース前の練習場や、フォトモードのためだけにあるというのは悪い意味で贅沢すぎるように思います。

一応、「Pスイッチミッション」で発生するチャレンジ自体は毎回特色に富んだ楽しいものになっています。
ものによっては本作のアセットを贅沢に使ったものであったり、かなりチャレンジングな難易度であったりと、任天堂らしいプラットフォーマーアクションのノウハウが『マリオカート』のならではの遊びとして落とし込まれていました。
また「ハテナパネル」や「Pスイッチ」を抜きにしても、レースで走らないちょっとした場所がアスレチックのように作り込まれていることも多く、単にぼーっと走っているだけでも止め時を見失うほどの密度や導線をこの世界は有しています。
例えば『Wii Sports Resort』の「遊覧飛行」が好きだった、もしくは『スーパーマリオ64』や『スーパーマリオ オデッセイ』でスターやムーンを探すわけでもなく飛び跳ねているだけで時間が溶けていったというプレイヤーにとっては、これだけでも十分に“時間泥棒”と言えるほどの魔力がフィールドにあることは間違いありません。
ただだからこそ、この世界にもっと進行要素やひみつが隠されていても良かったのではないか……というのが正直なところです。

それでも、誰とでも遊べるパーティレースゲームとしての楽しみと、テクニックが活きるやりがいのある対戦ゲームとしての楽しみを両立した、新たなアクション・アイテム・対戦人数のバランスはこれだけでも『マリオカート ワールド』を肯定するのに十分な要素です。
『マリオカート』らしい世界を妥協なく作り込んだフィールドやコースのダイナミックさについても申し分なく、より豊かになったアニメーションの表現も本作の手触りの良さに貢献しています。
総じて、本作は『マリオカート9』と考えるならば傑作と言えるものに仕上がっていますが、『マリオカート ワールド』と名を冠して新世代の『マリオカート』を見せるというのには一歩及んでいない印象でした。
Game*Spark レビュー 『マリオカート ワールド』 ニンテンドースイッチ2 2025年6月5日
「フリーラン」の要素不足は残念だが、24人によるレースの楽しさはそれを補って余りある―完成形といえた前作を優に上回る新たな『マリオカート』
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GOOD
- 24人対戦で加速する『マリオカート』らしいハチャメチャ感
- 新たなアクションによるテクニカルな走りとショートカット開拓
- 妥協なくシームレスに作り込まれた現代的な「マリオ」世界
- より豊かになったキャラクターと、カートゥーンな動きが楽しいアニメーション
BAD
- 「フリーラン」における目的の不足
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